エスケーピズム: ブランド体験にいま必要な視点

ご存じかもしれません。teamLabです。日本各地に複数の拠点を持ち、単一のアート集団による美術館として世界一の来場者数というギネス世界記録を保持しています。年間250万人。開館以来の累計は1000万人を超えます。海外からの来場者の70%が、日本に到着する前にチケットを予約しています。
これを目当てに、わざわざ東京行きの飛行機に乗る人がいるのです。ついでではなく、それが目的として。
そして興味深いのはここからです。teamLabは館内で何も売りません。物販もなければ、グッズを推してくるギフトショップもなく、大音量のプロモーション音楽も流れません。チケットを買い、中に入り、体験する。それだけです。
では、なぜこれほどうまくいくのでしょうか。そしてブランドは、そこから何を学べるでしょうか。
エスケーピズムは実用性に勝る
ARの試着は購入の判断を助けます。製品コンフィギュレーターは選択を支えます。ブランドのフィルターは認知を広げます。どれも有用ですが、どれ一つとして人をどこかへ「運んで」はいません。
これらは機能的なツールです。価値はありますが、人を自分の現実の中にとどめ置きます。スニーカーが服装に合うかを確かめているあなたは、依然としてリビングにいるのです。
エスケーピズムとは、感情の移動です。誰かを日常の現実から連れ出し、驚きや安らぎ、変容をもたらす何かへと運ぶこと。判断をしているのではなく、どこか別の場所へ連れて行かれているのです。
これは今とりわけ重要です。ニュースが容赦なく暗く、画面が絶えず注意を要求してくる現在の状況では、本物の逃避を求める気持ちはかつてないほど強まっています。
teamLabが正しくやっていること
teamLabでは靴を脱ぎ、足首まで水に浸かって歩き、映像に囲まれ、時間と場所の感覚が溶けていきます。2時間のあいだ、あなたは完全に別の場所にいます。
売り込みも、アップセルも、体験の中のギフトショップもありません。あるのは没入だけです。
そしてそれが、高い価格設定を成立させています。決して安くはありませんが、人々は喜んで支払います。また訪れ、友人に話し、SNSに投稿します。
なぜか。逃避が本物だからです。価値はその先にあるものではなく、体験そのものにあるのです。
ブランドが盗むべき原則
没入型のブランド体験に長年携わってきて、teamLabが教えてくれることは次のとおりです。
1. 感情が先、技術は見えなくする
teamLabは「プロジェクションマッピングとインタラクティブセンサーを使っています」と切り出したりしません。まず驚きをつくります。技術は姿を消すのです。
2. 逃避の中では売らない
何かを売り込んだ瞬間、魔法は解けます。人々に、自分は探検者ではなく消費者なのだと思い出させてしまうからです。
3. 社会的な体験にする
人はteamLabに連れ立って行きます。一緒に写真を撮り、共有します。一人きりのVRとは違い、この逃避は共同のものなのです。
4. 摩擦に見合うだけの畏敬を用意する
摩擦はあります。チケットを予約し、移動し、靴を脱ぐ。しかし畏敬の念がそれに見合っています。だから労力が報われたと感じられるのです。
5. 逃避が本物なら、高価格は成立する
teamLabは安くありません。あなたの没入体験が単なる仕掛けなら、人は支払いません。本当にどこかへ連れて行ってくれるなら、人は高い対価を払い、しかも感謝してくれます。
夢をつくる
これらの原則を実践しているブランドもありますが、多くはいまだに失敗しています。体験を装ったツールをつくってしまうのです。機能的で、記憶に残らないものを。
ブランドはあまりに多くの場合、「この技術をどう使えるか」という問いからインタラクティブ体験に取りかかります。より良い問いはこうです。「私たちは人をどこへ連れて行きたいのか」。
あなたがつくっているのはツールですか、それとも逃避ですか。
ツールなら、有用で摩擦のないものにしてください。逃避なら、腹をくくって振り切ってください。中から売り込みを取り除き、夢をつくる。この世のものとは思えない、特別なひとときをつくるのです。
投資対効果は、インセンティブで釣るよりも自然についてきます。それこそteamLabが見抜いたことです。体験そのものが商品なのです。そして1000万人の来場者を数えた今、それが機能しているのは明らかです。
あなたが本当に「どこかへ連れて行かれた」と感じたブランド体験は何ですか。ぜひ聞かせてください。