Apple Vision Proの製品ポジショニング - Digital Explorers' Diary #41

Digital Explorers' Diary #41へようこそ。
インタラクティブ技術、AI、web3、センスメイキング、起業、心理学をめぐる、考えるきっかけになるトピックを厳選してお届けします。
今回の要点:
- Apple Vision Proは、製品ポジショニングの見事な手本です。
- MetaがQuest 3を発表。
- そしてAIのリスクをめぐるいくつかのニュース。
Apple Vision Pro: 製品ポジショニングの見事な手本
新しい技術に認知と普及をもたらせるブランドがあるとすれば、それはAppleです。絶賛のレビューも、悲観的な評価も目にされたことでしょう。私は前者の側ですが、それは端末そのものではなく、その位置づけと、私が見通すAppleの最終的な狙いゆえです。名前も的確です。これはAppleにとっての、未来に対する新しいビジョンなのですから。彼らは成功するでしょうか。
見ていきましょう。
Appleが基本的な使い方しか見せないのはなぜか
発表の場で示された用途は、技術的に目新しいものではありません。立体的な写真や映像を除けば、それ以外はすべて何年も前から可能でした。
一歩引いて考えましょう。最終的な狙いは何か。長期的にAppleは、この種の端末が当たり前の存在となり、スマートフォンやノートパソコンに取って代わることを望んでいます。しかしXRヘッドセットは、大多数の人にとってまだまったく新しいものです。複雑なゲームや、よく分からない「メタバース」、込み入った業務用途を見せたところで、新しい利用者の心は動きません。
だから、単純でなければならないのです。仕事や映画鑑賞のための巨大な仮想スクリーン。これなら誰でも分かります。トップページで使われている言葉を見てください。前半で「難しい」言葉はspatial computingだけで、あとはすべて、それが何を意味するのかを平易な言葉と分かりやすい映像で説明することに費やされています。
確かに、技術好きの私たちとしては、XRの目覚ましい能力を前面に押し出す発信を見たかったところです。しかし私たちは、最終的な想定顧客ではないのです。
本当に高すぎるのか
3,499ドルという価格は市場で最も高価な部類に入ります。先ほどの論点と合わせて、「仮想スクリーンにしては高すぎる」という声も上がるでしょう。
確かに高価ですが、それには理由があります。まず、Appleだからです。私たちはブランドに対価を払っています。そして中身を見れば、Vision Proには驚くほどの品質を約束する技術が詰まっています。2つのプロセッサ、外向き・内向きのカメラとセンサー群、深度センサー、極めて高品質なディスプレイとレンズ。
これは売れます。まず私たちXRの専門家に。試さなければならず、その上で体験を開発するには所有する必要があるからです。そして資金に余裕のあるAppleファンにも売れるでしょう。1984年に2,495ドルで売られたMacintoshと同じく、早期採用者という立ち位置を得るための贅沢品として。
このことは、XRがいかに難しく、まったく新しいものであるかを物語っています。iPhone、Apple Watch、AirPodsは確かに革新的でしたが、電話も時計もイヤホンも、ずっと以前から存在していました。今回のAppleの野心は、コンピューターそのものを作り直し、まったく異なる時代を切り開くことにあります。彼らは成功するでしょうか。
極めて高い品質を土台に据えることで、Appleは、多くの利用者にとって初めてのXR体験になるかもしれないものを、非の打ちどころのないものに保証しています。それが普及を後押しするのです。
使いやすさへのこだわり
度付きレンズを別途あつらえる必要がある点を除けば、Vision Proのすべては使いやすさに向けて設計されています。ジェスチャーのために手を持ち上げる必要はありません。目がマウスになり、声がキーボードになります。
Appleは実際、コンピューティングを作り変えようとしています。3Dカメラは通常の写真を空間写真へと変え、娯楽や仕事の体験もまた空間的な体験へと変えていきます。
バッテリーについて一点。外付けで、駆動時間は2時間です。頭部にバッテリーを載せるのは無理だと判断したということは、ヘッドセット自体がすでに重いことを示唆しているのかもしれません。私にとって、これがVision Proの大きな問題です。とはいえ、多くの利用者は座って電源につないだまま使うのかもしれませんが。
ただ、私が気になっているのは
外向きのディスプレイは何のためにあるのでしょうか。XRヘッドセットの大きな問題の一つは、利用者が周囲の環境や他者から切り離されたと感じること、そしてその逆でもあります。前面のスクリーンに利用者の目を映すことで、周囲の人がその人の存在を感じ続けられるようにする。Appleはそうやってこの問題を解こうとしているのでしょうか。
さらに先を見れば、この外向きディスプレイによって、AppleはヘッドセットとARグラスの究極の融合を発明したのではないでしょうか。AirPodsでノイズキャンセリングと外部音取り込みを切り替えられるように、Vision Proは完全な没入と、その場にいる状態とを選べる仕組みなのでしょうか。
そして最後に。数年後、私たちはこの種の端末を一日中身につけているのでしょうか。私は技術の側の人間ですが、意図せぬ帰結を本気で案じています。テレビ、SNS、スマートフォンと、私たちは現実の上に抽象と拡張と仮想の層を重ねてきました。そして現代の一部の卓越した思想家は、それが意味の危機の一因だと考えています。これはまた別の回で扱うべき話題かもしれません。
ちなみに、最後に一つ小話を。現在の主要なゲームエンジンはUnityとUnreal Engineの二つです。AppleはUnityを選びました。なぜでしょうか。Unreal Engineの開発元であるEpic Gamesが、2020年にAppleを提訴したからかもしれません。
今週のニュース:
話題はAppleが席巻していますが、注目すべき出来事をいくつか挙げます。
- 米空軍の関係者が、AI制御のドローンが人間の操縦者を殺害するに至ったシミュレーションを実施したと語りましたが、米空軍はそのような実験は行っていないと否定しました。仮に事実でなかったとしても、AIが自らの最適化目標を満たすためなら何でもしてしまうという、AIリスクの好例ではあります。
- MetaがMeta Quest 3を正式発表しました。価格は499.99ドル。Quest Proと比べて(相対的に)これほど低い価格を実現するために、Metaは何を犠牲にしたのでしょうか。最大のものは視線・表情トラッキングの非搭載で、これにより自分の表情がアバターに反映されなくなります。
カラーカメラと深度センサーはMRへの注力を示しており、ザッカーバーグのQuest関連動画の多くがMRを中心に据えていたことを考えれば、筋の通った選択です。 - いつもながら示唆に富むClearer Thinkingのポッドキャスト、今回はJim Ruttを迎え、AIリスクの見取り図を示してくれました。
AGIリスク: AIが全人類より知的になり、次にそれを上回る次世代版を自ら生み出し、そして私たちが認識すらしていない何らかの目標を追う過程で、人類を滅ぼしてしまう。
特化型AIの悪用: 顔認識で社会信用スコアを構築する政府、より精密で狙いを定めた広告をつくる企業など。
現在の社会の加速: 効率化されたサプライチェーン、増え続ける新製品、いっそうの消費主義。そしておそらく、プラネタリーバウンダリーへのより早い到達。
関連して、計算資源に支配された世界がもたらす環境上のリスク。
判断をAIに委ねることによる人間の能力の低下。要するにIdiocracyが現実になるということです。
ポッドキャストから
毎週、Guillaume BrincinとSébastien Spasとともに、ポッドキャストLost In Immersionをお届けしています。
- Quest 3について語りました。上記をご覧ください。
- 何度も触れてきた可能性が、いよいよ現実になります。AIによって、AIが動かすキャラクターがゲームに新しい命を吹き込むのです。
ただしNVidiaのデモは少し物足りません。紹介されている会話がかなり単純だからです。これは技術の限界なのか、それとも見せ方の失敗なのでしょうか。
本物であれば見事なもので、遅延がまったく感じられません。AIのおかげで、ゲームも仮想世界も、ますます生き生きとしたものになっていくでしょう。 - 現在のARレンズの多くは、仮想の要素を表示するのに一枚の奥行き面しか使いません。これは人間の目にとって自然ではなく、ARグラスを長時間使うと疲れの原因になります。CREALやVividqといった企業が解こうとしているのが、まさにこの問題です。
疲労は主要な障壁の一つなので、これはARグラス普及の鍵を握る要素になり得ます。