技術ではなく便益を売る - Digital Explorers' Diary #55

Digital Explorers' Diary #55へようこそ。
インタラクティブ技術、AI、web3、センスメイキング、起業、心理学をめぐる、考えるきっかけになるトピックを厳選してお届けします。
今回の要点:
- インタラクティブ体験を売るとき、ニーズと便益を念頭に置くことの大切さ。
- Unityの価格変更が招いた混乱。
- NianticとCapcomによる新作の位置情報ゲーム。
- そして空間コンピューティングに関わるAppleのニュース。
技術を売るな。便益を売れ。
営業やマーケティングでまず学ぶ原則の一つが、顧客の話をよく聴くことです。多くの場合、顧客が口にするのは欲しいものです。私が身を置くBtoB/BtoCのインタラクティブ体験の領域では、その欲しいものはしばしば技術にまつわります。ARを使った街頭マーケティング体験がほしい。VRの研修ソリューションがほしい。技術好きとしては、それ以上考えずにいきなり提案へ飛び込みたくなります。技術こそ、私たちが最もよく知っていることだからです。
しかし残念ながら、この技術だけを見る視点では、プロジェクトは期待に届かないか、そもそも始まりません。高すぎる、あるいは複雑すぎるとされ、顧客はそこに価値を見出せないのです。
そうではなく、欲しいものが語られたら、いったん立ち止まって考えるべきです。その欲しいものの背後にあるニーズは何か。期待されている価値は何か。顧客にとっての戦略的な文脈は何か。
最初の例では、欲しいものはARの街頭マーケティング体験です。その背後には何があるのか。ニーズは何か。新商品の発売プロモーションのためでしょうか。既存顧客層に働きかけて生涯価値を高めたいのか、それとも別の層を狙いたいのか。新店舗の開店を告知したいのでしょうか。
VR研修でも同じ問いを立てます。ニーズを探るのです。新入社員の研修なのか、経験者の技能向上なのか。特定の工程で労災が多いのでしょうか。ある部品の品質指標が低いのでしょうか。
これらの問いに答えが出れば、プロジェクトの最終目標は明確になります。成否も測りやすくなります。技術は便益の背後に隠れます。提案は顧客にとって意味のあるものになります。技術だけを売れば経費と見なされますが、目標と便益が明確なプロジェクトは投資となり、真に事業の役に立つ道具になるのです。
「やってはいけない」例をいくつか挙げます。
- 全社集会のためにARのインタラクティブゲームを売らないこと。売るべきは、採用ブランディング、従業員の一体感、チームビルディングです。
- 店内で待つ顧客向けのVR体験を売らないこと。売るべきは、ブランドへの関与、ロイヤルティ、顧客生涯価値です。
- ARの宝探しを売らないこと。売るべきは、ブランド認知、来店誘導の戦略、見込み客の拡大です。
- メタバース(Roblox、VRChatなど)のポップアップを売らないこと。売るべきは、非物質化、常時稼働できること、関与の深さ、Z世代への到達です。
繰り返しますが、これらの技術は素晴らしく、その本来的な魅力に引き込まれるのは無理もありません。しかしそれが続くのは一時のことで、やがてプロジェクトは、経済的にはもちろん、ニーズと便益に照らして本当に筋が通っていなければならなくなります。
ちなみに、この考え方について私と一緒に整理したいとお思いなら、いや必要とお感じなら、こちらからご連絡ください。
今週のニュース:
- この一週間は、顧客の信頼をいかに失うかという不幸な教科書的事例となりました。主要なゲームエンジンの一つUnityが、9月12日に突然の価格モデル変更を発表したのです。Unityで開発されたゲームについて、インストール1件あたり0.2ドルを課金し始めるといいます。さらに悪いことに、何を1インストールと数えるのかが不明確で、しかも利用規約の履歴が不透明な形で削除されたという話まで出ています。
Unityの利用者は一斉に反発し、別のエンジンへの移行や、事業そのものの畳み方を考え始めています。この手の課金は、あっという間に膨れ上がり得るからです。
17日日曜のTwitterでの発表のとおり、数日のうちにこの変更を撤回するかもしれません。しかし、たとえより良い案を出してきたとしても、開発者コミュニティの信頼という扉はいったん閉じれば二度と開きません。経営陣の全面的な刷新なら助けになるでしょうか。見ていきましょう。
Unity - NianticによるポケモンGO型の最新作Monster Hunter Nowが、9月14日に公開されました。
以前、ポケモンGOをそのまま貼り替えただけでは成功しにくいと書きました。今回はクエストと収集を軸にした作品で、モンスターを狩り、キャラクターや武器を強化し、ポケモンGOを有名にした位置情報の仕組みを使って周辺を探索します。
ARの利用を無理に押し出すのではなく、モンスターハンターのゲーム性と位置情報探索の組み合わせを主軸にしているようで、それが成功を助けるかもしれません。見ていきましょう。
ちなみに発売時のトレーラーは見事で、有名なインフルエンサーを起用しています。これはCapcomがZ世代へ利用者層を広げるための一手です。成功するでしょうか。 - 2023年のApple基調講演が9月12日に開かれました。ここではApple Vision Proに関わる発表だけを取り上げます。
最新のApple Watchが「ダブルタップ」を導入しました。画面に触れずに、親指と人差し指を2回合わせるだけで操作できる機能です。これはVision Proの発表で見られたものに近く、WatchがVision Proのアクセサリーとして収束していく可能性を示唆しているのかもしれません。あるいは、ほかのApple製品のコントローラーとして働く新しいブレスレットでしょうか。
新しいAirPods Proはロスレスオーディオに対応し、Vision Proとの接続が可能になりました。スピーカー内蔵のVR端末を使ったことがある方なら、あの音がどれほど大きいかご存じでしょう。ノイズキャンセリングのイヤホンが使えるのは、体験として確かな改善です。
Apple
最新のiPhone 15 Proは、Apple Vision Proで視聴できる「空間ビデオ」を撮影できます。この形式がほかの種類の端末で見られるかは不明で、Appleのことを考えれば可能性は低そうです。それでも、空間コンピューティングという盤上で、Appleが着実かつ戦略的に駒を進めているのを見るのは、やはり見事です。
Apple - 関連して、AugmentedReality.frから招かれ、Vision Proの機能と現在の市場での位置づけについて話しました。フランス語です。下からご覧いただけます。
ポッドキャストから
毎週、Guillaume BrincinとSébastien Spasとともに、ポッドキャストLost In Immersionをお届けしています。今週の内容は次のとおりです。
- VRの中で働くことは、意見の分かれる話題です。Immersedと2024年発売予定のヘッドセット「Visor」のように、もう実用段階だと考える人もいますが、私たちはまだ道半ばだと見ています。装着の快適さもさることながら、最も重要なのは解像度と、現行のヘッドセットの画面が引き起こす目の疲れです。このVisorのような高精細な画面であっても、1日8時間には向かないだろうというのが私たちの見立てです。
Visor - 続いて、画像や映像からの3D再構成における次の進展を見ていきます。3D Gaussian Splattingという、いかにも学術的な名前の技術です。仕上がりは見事です。これが動画で使えるようになるまで、あとどれくらいかかるのでしょうか。Appleの空間ビデオに対する、有力なマルチプラットフォームの対抗馬になるはずです。
Inria - Metaがついに、企業・産業でのVR活用についての動画を制作しました。Quest 3と将来のQuest Proは、業務の世界で広く使われるようになるでしょうか。あり得ますが、それはMetaアカウントの必須化がなくなり、信頼できる端末管理の仕組みが伴った場合に限られます。—
Meta - 先週も触れたとおり、NintendoがGoogleと協業してVRヘッドセットを開発しているという噂があります。期待が高いぶん、これは絶対に外せません。価格も気になるところです。Nintendoの据置機は家族や友人と楽しむものとして親しまれてきましたが、私たちはヘッドセットを何台も買えるでしょうか。それとも、据置機とヘッドセットのあいだで体験を分かち合う機会になるのでしょうか。
mixed-news
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